1963
詩集『もうそれ以上おそくやってきてはいけない』より
「Now is the time」
T時は今U
吠えつづけて唄いつづけるオーストン氏の
黒いひたいから 時がいま いまと
こぼれるので
おしゃれな彼のピンクのシャツも全く濡れて
そのズボンの中にしまわれている
2本のチョコレエト色の足が
グレエトデンのように突然 狂暴に
欲情し 床をけり はねはじめるのだ
T時は今U
今 はどこにいてどこに生えてるの? なんていわない彼は
彼はちぢれた髪にこてをあて3センチほどの高さにカールをつくる それが彼の今だ
それに空腹だ
あの子はおれとのダンスをことわった
いまいましい
そしておれのうちの庭であの牝犬は
ろくでもない牡犬の子を生んだ
おふくろからしばらく手紙がこない
昨日は mother の birthday だったのに
おれときたら 車のエンジンは快適だ
だのに エンジンをまわそうにも
世界はからっぽのレストランだ
誰かがたべちらかしたあと
退屈が 汚れた皿を並べて虫歯と話してるというていたらく
おれは白いシーツ
洗い立ての空に血をながす女がほしい
愛だけでホット・ケイキのように
たべてしまえるホット・タイムがほしい
あ すべての女
すべての時は排泄する 退屈 不幸 不機嫌
時には風邪をひいて鼻をかむ女がいる
SICKは悪徳だ
おれの中で エンジンがうなる
油が充分すぎるのだ
T時は今U
TオーストンさんってすばらしいわU
クラブの隅ですわってる女の子たちはヒヨコのようにため息をついてすこし尻をふるわせ男たちは彼の唄の中で自分たちのエンジンをまわしはじめる
エンジンをまわしはじめると 男たちは
すべて憂うつだ 世界中の男たちは孤独だ
エンジンをまわしている間は
彼らの母親たちから娘たちまでひきつづいていく廃坑にむかい快楽と絶望するために はいっていくのだ
男が一台の競争自動車となりロケットとなり
見知らぬ宇宙にむかって戻らぬことのために
飛びたっていくのを
女はやさしいと思ったり勇敢と思ってはいけない
今の時から脱出するのはひどく臆病なことだ
女は時を育てることを知っている
一滴の情事から 愚鈍な頭脳をもった未来を
小麦のように育てると大地の匂いさえしてきて
みんな それを平和だとかGREATだとか
てっきりまちがえる
一九六一年から五十年たっても五十年あとに戻っても
その時もあの時もその時の時は今だ だが
黒人の大男 ベラフォンテばりの好男子
オーストン氏の19才の今は
今をにがしてはズボンのようにずりおちてしまうとばかり吠えつづけて唄うのだ
マイクをかかえ 長すぎる足をもちあげ
彼の中に住んでる細胞のことごとくが
窓を開き 汗を出してT時は今U
唄い終わると彼の今は すっかり減ってばったりなくなってしまうのだが
彼はズボンの中でまだうめいている足や
シャツの中で汗をかいてる胸毛の熱い息に
なだめられ白い歯をむけて笑うのである
(穴のあいた死んだ時の中によこたわっているオーストン氏の美しいイリュージョンなどおかまいなく)
Tおれが全くいい男でなくてなんだろうU
TそれにしてもうなりつづけてやまないおれのエンジンのためのレストランよU
なるほど人々らはひき離される 時から
今から が
時にとって今はたえまない結婚である
時が今だと思う時
今が時だと思う時