1965
詩集『今晩は荒模様』より
「男根(Penis)」スミコの誕生日のために
神は なくてもある
また 彼はユーモラスである ので
ある種の人間に似ている
このたびは
巨大な 男根を連れて わたしの夢の地平線
の上を
ピクニックにやってきたのだ
ときに
スミコの誕生日に何もやらなかったことは
悔やまれる
せめて 神の連れてきた 男根の種子を
電話線のむこうにいる スミコの
細く ちいさな かわいい 声に
おくりこみたい
許せよ スミコ
男根は 日々にぐんぐん育ち
いまは コスモスの 真中に 生えて
故障したバスのように動こうとしないのだから
そこで
星のちらばっていたりする美しい夜空や
ハイウェイを 熱い女を連れて来るまで突っぱしる
どこかのほかの
男をみたいと思う時は
ほんとに
よくよく そのバスの窓からのりだして
のぞかねばならない
男根が
動きだし コスモスのわきあたりにあると
眺めがよいのだ そんな時は
スミコ
星空の 光りぐわいの寂しさ
真昼の おかしい冷たさが
腹わたにしみわたり
しみじみと みえるものはみえ すべて人は
狂わずにいられなくなる
男根には 名前もなく 個性もない
また 日づけもないので
祭のみこしのように
誰かが かついで通りすぎる時
さわぎの様子で ときどき
それと 在り家が知れる
その ざわめきの中で
神にいまだ支配されない種子たちの 未開の
暴動や 雑言罵言の
空漠がきこえたりするのだ 時折
神というのは とかく不在で
かわりに 借金や 男根だけをおいて
どこかにでかける とみえ
いま
神に おき忘れられた男根が
歩いてくる こちらの方へ
それは 若く陽気で
巧まない自信にみちている ので
かえって 老練な微笑の影に似る
男根は 無数に生え
無数に 歩いてくるようだが
実は 単数であり 孤りであるいてくるのだ
どの地平線からみても
いちように 顔も ことばもなく
そのようなものを スミコ
あなたの誕生日にあげたい
すっぽりと あなたの存在にかぶせ すると
あなたに あなた自身が みえなくなり
時に あなたが 男根という意志そのものになり
はてもなく さまようのを
ぼうようと 抱きとめてあげたいと思う