1992
『ひらひら、運ばれてゆくもの』より

「海燕の声 ふりそそぎ」

一泊千二百円 清潔なベッド
海にむかって 窓がひらく 早朝
光る海の上を すべっていくのは
舟ではない あれは
わたしである
どこへ?


わたしすら知らない方向へ 明らかに
でていく わたしを その朝みる
わたしは ここにいて
ここにいない
塔そのものになり 思惟の中で秘かに
屹立するが 一方
すみやかに この地を去り
遥か透明に むかい 宇宙そのものと化し
呼吸していく さざ波 その光る一瞬一瞬に
視る 数億分の わたし その細胞を